官邸から見た原発事故の真実 これから始まる真の危機
田坂広志著、光文社新書
2012年1月20日発行
定価:本体780円+税
ISBN978-4-334-03661-4
この本は、原発事故をとりあげたセンセーショナルな出版物が多いなかで、冷静に現実を見据えて廃炉がもたらす放射性廃棄物の最終処分という、ほぼ永遠の問題を指摘している。著者が、2011年3月29日から9月2日まで内閣官房参与として原発事故への対処、原子力行政の改革、原子力政策の転換に取り組んだ過程で見えてきた7つの問題を、政府が答えるべき「国民の七つの疑問」として語っている。
著者の田坂広志氏は、リスク・マネジメントと原子力の安全性に関する専門家であり、これまでの著作は複雑系やマネジメントに関するものから人生や仕事に関するものまで大変幅が広い。現在、同氏は多摩大学大学院教授、シンクタンク・ソフィアバンク代表をされている。
この本の第一部で著者は、福島第一原発の事故は幸運にも最悪の事態は避けられたが、現在の最大のリスクは、政界、財界、官界のリーダーの間に広まっている「根拠のない楽観的空気」であると指摘している。この空気は原発事故の直接の被害を受けていない国民の間にもあるような気がする。日本人の「臭いものには蓋」つまり不都合な現実は見たくないという心理が働いているように思う。
この本の第二部で著者が語っている、政府が答えるべき「国民の七つの疑問」とは、
- 原子力発電所の安全性への疑問
- 使用済み燃料の長期保管への疑問
- 放射性廃棄物の最終処分への疑問
- 核燃料サイクルの実現性への疑問
- 環境中放射能の長期的影響への疑問
- 社会心理的な影響への疑問
- 原子力発電のコストへの疑問
であり、これらの疑問に、国民からの信頼を失った政府が答えるためには、「身」を正し、「先」を読むことだと指摘している。
この本の第三部では、日本の民主主義を「観客型民主主義」から「参加型民主主義」に変えていくことが提案されている。まさにジョン・F・ケネディが1961年の大統領就任演説で語った「祖国があなたに何をしてくれるかを尋ねてはなりません、あなたが祖国のために何をできるか考えて欲しい」を今の日本国民が思い起こし、行動を起こすことが求められていると思う。その意味で、この本はお勧めである。
田坂広志氏が2011年10月14日に日本記者クラブで行ったこの本の基になった講演模様。
