米経済誌フォーチュンが2009年11月9日に発売予定の最新号に掲載される「過去10年間の(最も優れた)最高経営責任者(CEO)」に、米電子機器大手アップルCEOのスティーブ・ジョブズ氏を選んだと発表したそうです。
デジタル携帯プレーヤー「iPod(アイポッド)」や携帯電話「iPhone(アイフォーン)」などヒット商品の開発や商品化を主導。好業績をもたらしたことが評価されたとのこと。
ジョブズ氏といえば、カリスマ経営者として世界的にも有名な方なのですが、実は、個人的にもかなりの影響を受けた人物です。
どんな影響を受けて来たか...少しお話いたします。
最初の出会いは、秋葉原電気街の店頭で見た「Apple IIe」でした。アップル社が創業され、LisaやApple Iという歴史的にエポックメイキングなコンピュータが発表され、そしてApple IIeがようやく日本にも持ち込まれるようになったのでした。
小さな真っ黒なディスプレイに表示されているのは、ポリゴン描画された三角形。その三角形が、ぐるぐると高速に回転しています。その描画速度を見たときの衝撃は今でも忘れません。この驚きが、もしかしたら、この業界に興味を持つようになったきっかけなのかもしれません。
社会人になって初めて触ったパソコンは、NECのPC9801でした。日本語FEPとして一太郎が発表され、急速にパソコン、ワープロ文化が発展し始めた時代でした。その頃、ちょうどApple社のMacintoshがやはり上陸し、再度仰天!
一太郎のワープロで、罫線や図形描画に悩まされていた私としては、Macintoshに搭載されていたSuperPaintの図形描画能力に、相当に影響を受けたものです。別のコラムで書いた、提案型営業を始めるきっかけとなった事件は、このMacintoshとの出会いがなかったら起きえなったかもしれません。要するに、提案型営業を始めたかったのではなく、もしかしたら、Macintoshで図形を描画することがあまりに楽しくて、毎日のように提案書を作成していたといっても、言い過ぎではないかもしれないのです。それほどまでに、このMacintoshにはお世話になりました。
次の衝撃的な出会いは、NeXT Computerでした。フルにオブジェクト指向で開発されたOS「NEXTSTEP」は、それまでのソフトウェア工学の常識を覆す衝撃でした。これこそ、望んでいたOSだと心から信じ込んだものです。
そして、このNEXTSTEPとの出会いがきっかけで、オブジェクト指向言語を用いたシステムアーキテクチャの設計に思いっきりはまり、数々のエンドユーザー様向けシステムのコア・テクノロジーとして活用させていただきました。
中でも思い出深いのは、某大手証券会社様向けのトレーディングシステムです。それまでのリスク指標が、難解な数式から得られる「数字」だったのに対し、われわれがご提案したのは、3Dグラフィックを用いた可視化でした。これはとてもチャレンジャブルなプロジェクトでしたが、お客さまからのご評価も非常に高く、とてもやりがいのあるプロジェクトだったことを覚えております。
難解な数式やグラフを可視化するために、NEXTSTEPが保有していた、数々のクラスライブラリが極めて有効に活用できたことが、プロジェクトの成功の要因だったと思います。それと、なんといっても、お客様ご自身が、NEXTSTEPの新しい技術に嫌悪感を持たず、積極的に導入を推進してくださったことも、成功の背景としてとても重要な要素だったと思います。
コンサバティブになりがちな、日本の金融機関でのオブジェクト指向導入は、このプロジェクトをきっかけに、大規模に横展開をしていくことになるのですが、まさに、金融システムの差別化の重要要素が、IT投資であると認識された黄金期でもありました。
次に取りかかったのが、日本全国を高速伝送網でネットワーキングするための、新型のノードシステムの開発でした。このプロジェクトの重要なコンセプトは、それまで、高速伝送路の制御は、電気通信事業者の専任のオペレータによる捜査を行うことが常識だったものを、ある一定の範囲内の帯域制御を、まさにエンドユーザーに開放し、オープンなインタフェースでネットワークをダイレクトに制御できるようにしたいという、大変画期的なコンセプトでした。
私たちの仕事は、まず、加入者データ、サービスオーダーデータ、設備データ、回線設定データ、工事データなど、あらゆるデータベースを統合化することから始まりました。一つ一つのデータベースは、国内最大規模、あるいは世界最大規模のレコード数を誇る、超巨大データベースです。統合するなど、不可能と思われていたのですが、これもまた、NEXTSTEP流の設計技法にヒントを得て、数年がかりだったプロジェクトを1年半で完了させることができたのでした。
さらに、全てのデータをユーザーが能動的に自由に接合、分離、マージ、ソートできるように管理オブジェクト化し、ITU準拠のGDMOに対応させるなど、考えられるあらゆる技術を思いっきり投入することができたプロジェクトでした。
研究段階でのシステムでは、ジョブズ氏自身も見学されたこともあり、とても思い出深い数年間でした。
いつの時代でも、一歩先、二歩先、あるいは三歩先を見据えた企画を打ち出す、スティーブ・ジョブズ氏。彼の動向からは眼を離すことができません。Pixar Animation Studios社によって、コンピュータグラフィックスの世界を大きく変貌させ、さらにApple社を倒産の危機から見事に復活させた天才児。
彼の感性と行動力、天才的なプレゼンテーション能力には、驚かされるばかりです。その彼が、次は何を始めるのか?想像もできませんが、きっと驚くような新分野を切り開いていくのではないでしょうか。そして間違いなくその新分野は、人類の日々の生活を一新させるような、まったく新しいコンセプトのテクノロジーであるに違いないと思うのです。
今回の最優秀CEO受賞はとてもめでたいことではありますが、そのような小さなレベルではなく、全世界的な先導者であることを既知の事実として認め、讃えたいと考えます。